【思考過程】令和5年論文式試験[民事系科目第1問]〔設問1〕

はじめまして。

本稿は、現役の弁護士が司法試験問題を解く思考過程をできる限りそのまま記事にしようという試みです。

 

今回は令和5年の民法を扱います。

(問題は以下のリンクをご参照。)

001400045.pdf (moj.go.jp)

 

それでは、はじめていきます。

 

〔設問1〕

まず、【事実Ⅰ】を頭から読んでいきます。

 

①「令和5年4月1日、Aが遺言を残さずに死亡し、B、C及びDがAの財産を相続した。B、C及びDの間での遺産分割は未了である。」

民法は、配偶者と被相続人の子が相続人となる場合には、1:1の割合になることを規定しており(民法900条1号)、同順位の血族相続人の間では、等しく分けられることを規定しています(均分相続の原則。民法900条4号)。

そのため、法定相続分で相続するとすれば、甲建物は、配偶者であるDが2分の1、B及びCが残りの2分の1を2分の1ずつ(すなわち4分の1ずつ)相続することになり、甲建物について共有関係が生じていることになりそうです。

 

②「同年5月1日、Dは、甲建物を改築してその1階部分を店舗として利用することを計画し、B及びCの同意を得ないで、甲建物の改築工事を行った。」

⇒共有物の変更は、他の共有者全員の同意を得なければすることができないとされており(民法251条1項)、管理に関する事項は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決することとされており(252条1項)、これらの規定にかかわらず、保存行為はすることができるものとされています(民法252条5項)。

変更・管理・保存の区別は相対的なものですが、改築工事ということであれば、変更に該当するものとして、共有者全員の同意が必要になりそうです。

 

③「令和5年8月31日、Bは、Dに対し、共有持分権に基づいて甲建物の明渡しを請求し(以下「請求1」という。)…」

⇒BのDに対する請求権(訴訟物)は、共有持分権(所有権)に基づく建物明渡請求権かと思いますが、【事実Ⅰ】を前提とする限り、Bが共有持分権を有するのは明らかですので、当該請求を否認することは難しそうです。

そこで、抗弁として、占有権原の抗弁を考えます。

ここで、各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができるとされており(民法249条1項)、共有者の1人が合意に基づかずに共有物を独占的に占有し使用していても、(当該共有者は自己の持分によって、共有物を使用収益する権限を有しており、これに基づいて共有物を占有するものと認められることから、)それは適法占有であり、他の共有者は明渡しを求めることはできないとされています(最判昭和41・5・19民集20巻5号947頁)。

 

④「Dは、Bの請求に対し、「㋐私は、Aの妻として甲建物に居住していたのだから、Aの死亡後も無償で甲建物に住み続ける権利があり、仮にそのような権利が認められないとしても、㋑甲建物を共同で相続したのだから、いずれにせよ請求1及び請求2を拒むことができる。」と反論した。 」

⇒㋑は上記③で述べた共有持分権に基づく占有権原ことでしょう。

㋐は、配偶者短期居住権に基づく占有権原の主張でしょうか。

配偶者短期居住権は、配偶者が被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合に、その全部または一部について当然に成立するものです(民法1037条1項)。

ただ、配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用をしなければならないとされており(民法1038条1項)、配偶者に善管注意義務違反がある場合には、居住建物取得者は、配偶者に対する意思表示により、配偶者短期居住権を消滅させることができるものとされております(民法1038条3項)。

ここで、Dは、上述のように、他の共有者全員の同意を得ずに共有物の変更を行うなどしていることから、当該義務違反があるとして、配偶者短期居住権が消滅する可能性もありそうです。

なお、配偶者は、配偶者短期居住権が消滅したときは、居住建物の返還をしなければならないものの、配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は、居住建物取得者は、配偶者短期居住権が消滅したことを理由として居住建物の返還を求めることはできないものとされています(民法1040条1項)。

 

ここで、設問1を読むと、「Dは、下線部㋐・㋑の反論に基づいて、請求1及び請求2を拒むことができるかどうかを論じなさい。」ということなので、

上記③④で述べたことを整理すると、解答になると思います。

 

次回は、〔設問2〕を検討します。